PERの目安は、なぜ15倍なのか?

PERの水準を考えるとき、15倍が目安といわれていますが、

なんでだろうと疑問に思ったので考察してみました。

 

1.過去のPERの平均値


まず最初に、過去のPERの平均値を調べてみます。
使うデータは、米国株の1900年以降の株価データです。
この約100年ちょっとの期間のPERを調べると・・・
平均15.6、標準偏差7.5となります。
つまり過去においては、PER15倍を中心に8倍~23倍くらいの幅で推移していたことがわかります。
ではなぜ、PER15倍を中心に取引が行われてきたのでしょうか?

 

2.PERの理論値の計算


ここでPERの理論値は、どうやって計算するのか確認したいと思います。
株価の計算に使われる割引配当モデルにおいては、以下の式で表されます。

PER=1÷(RF+RM-G)
RF:リスクフリーレート
RM:リスクプレミアム
G:配当成長率

つまり、この3つの項目(リスクフリーレート、リスクプレミアム、配当成長率)がわかれば、PERの理論値が計算できます。

 

3.リスクフリーレート


まず、リスクフリーレートですが、これは無リスク資産の利回りのことです。
短期金利を使うのか、長期金利を使うのかは、議論が分かれるところではありますが、一般的には長期金利を使うことが多いので、今回は米国の10年物国債利回りの1900年以降の平均値4.7%を使うことにします。

 

4.リスクプレミアム


次に、リスクプレミアムですが、これは、リスクに対して投資家が要求する利回りのことです。
株式のリスクは、価格変動リスク、流動性リスク、信用リスクなどがありますが、今回は市場平均のお話なので、主なリスクは価格変動リスクとして考えてみます。
価格変動リスクは、ボラティリティ(値動きの振れ幅)のことで、一般的には標準偏差で表し、米国株の場合は年率18%程度です。

つまり、米国株の値動きの振れ幅の目安は1年間で±18%程度ということになります。
では、この年率18%のボラティリティに対するリスクプレミアムは、どの程度でしょうか?
これを計算するのに使うのが、ブラックショールズモデルです。
ブラックショールズモデルは、ボラティリティ金利、原資産価格などからオプションの価値を計算するのに使われるモデルです。ここでは、ボラティリティ以外の要素を排除するため、金利ゼロ、配当ゼロ、ATMストライクとして計算すると(この場合であればボラティリティ×0.4で、リスクプレミアムの近似値を求めることができます)、年率18%の場合で、リスクプレミアムは7.2%となります。

 

5.配当成長率


最後に配当成長率ですが、これは1株当たり配当金の成長率で、1900年以降の平均値は5.4%です。

 

6.過去のPERの理論値


以上3つの項目の過去平均(リスクフリーレート4.7%、リスクプレミアム7.2%、配当成長率5.4%)を、先ほどのPERの式に入れて計算してみると

 

1÷(4.7%+7.2%-5.4%)= 15.4(倍)

 

となり、PERの目安である15倍となりました。

つまり、「PERの目安は、なぜ15倍なのか?」の答えは、過去のリスクフリーレートとリスクプレミアムと配当成長率の関係から、15倍が妥当な水準だったからということになります。

 

7.今後のPERの理論値


最後に、今後のPERの水準について、考えてみたいと思います。
今後の予想PERを計算するには、3つの項目の予想値を使えば計算することができます。
例えば、リスクフリーレートを直近の米国10年物国債利回り約3%、リスクプレミアムは6.4%(過去30年間の平均ボラティリティ16%×0.4)、配当成長率は4%(米国の潜在成長率2%+期待インフレ率2%)とした場合、

 

1÷(3%+6.4%-4%)=18.5(倍)

 

となります。

 

8.まとめ


①過去においては、リスクフリーレートとリスクプレミアムと配当成長率の関係から、15倍が妥当な水準だった。
②低金利・低ボラティリティ環境が続くのであれば、PERは15倍より高くなる。
金利ボラティリティが上昇する場合は、PERは低下する。